とある実況者に恋をしている

実況者にガチ恋だなんて馬鹿みたいだと自分でも思う。

素顔も、年齢も、出身も、職業も、何も知らないのに好きだなんて可笑しい話だ。

実況者に恋なんてしてもいいことなんて一つもない。

彼は私の手の届かない時間を持っていて、彼は私の存在すら知らない。

それが時折たまらなく辛い。

身勝手で独りよがりな苦しみだと思う。

私の世界が彼でいっぱいでも、彼の世界には私は欠片ほども存在していないのだ。

 

なんで好きになっちゃったのかなあ、とふと思うことがある。

私には仲間と楽しそうにゲームをプレイする彼が輝いて見えた。最初はそんな憧れだった。

体調が芳しくないのに生放送を欠かさない彼が心配だった。大丈夫?無理しないで、それを伝えたかった。

彼の優しくて、気分屋で、天然なのにずる賢いところも、何もかも愛おしくなった。

何よりも、彼の笑い声が胸の奥に響いて、私の心臓は締め付けられたように痛んだ。

 

あの優しくて少し棘のある声で名前を呼んでもらえたらどれだけ幸せだろうか。

大丈夫だよ、と励ましてもらえたらどれだけ力が湧いてくるだろうか。

何もかも叶うことは無い。

もしかしたら今こうしている間、彼は綺麗な女性とデートしているかも知れない。

そうしていつの日か唐突に、実は結婚してました、なんて報告を聞かされるのだ。

所詮私は何万といるファンのうちの一人でしかなく、私は彼が与えてくれる情報からでしか彼を知ることはできない。

 

彼のツイートにリプライを送ってみても、それは何百件と来る似通ったそれらのうちの一通でしかなく、彼が読んだのかどうか確認する術は無い。

 

ゲーム実況を応援している私たちの間には暗黙の了解のようなものがあり、その中で彼らに恋をするということはタブーに分類される。

気持ち悪い、迷惑、そんな風に捉えられるものであるし、私も彼を好きになるまではずっとそう思っていた。

だから、私のこの醜い恋心は、見ている人が居るのかもわからないブログに吐き出すことでしか発散できない。

 

恋をして綺麗になるだなんて言うけれど、私は綺麗になっただろうか。

 

最初は楽しかった。今日出かける先に彼が居るかも!と心を躍らせた。

今はただ、ただ苦しい。ごめんなさいという気持ちが大きくなっていく。

馬鹿な視聴者でごめんなさい。気持ち悪い感情を抱いてごめんなさい。

夢を見てしまってごめんなさい。

誰にも相談できない馬鹿な恋は、溢れ出す場所もなく次第に淀んで恋と呼べるかは分からないものに変貌しようとしている。

 

ああ。私が彼をもっと早く知っていたら今頃認知されていたのだろうか。

そんな未来はあったのだろうか。

イベントで彼と話したあの二言とハイタッチだけを武器に、同担達に心の中でマウントを取る私。なんてくだらなくて幼稚なんだろう。馬鹿で馬鹿でたまらない。

 

恋をしているという事実も、どうせ叶うことのない一種の「仲間」である同担達に嫉妬して無理矢理にでも優越感に浸ろうとしてしまうのも、一片の情報をもとに私の中で作り上げた偶像の彼を追いかけてしまうのも、彼の現実も私の現実も見ないようにしてしまうのも、今のようにふと目が覚めて愚かな自分に気付いてしまうのも、馬鹿以外にどう表したらいいのだろう。

 

私が彼を知ってからのこの4年間で、彼の所属するグループはどんどん人気になっていった。私が彼を知ってから、彼のTwitterのフォロワー数は約9万人増えた。

それに反比例するかのように彼がイベントに出演する回数はだんだんと減った。某人気実況者さんらがそうするように、自分たちが主催するもの以外は出ないのかもしれない。

もしかすると、会える機会はもう無いのかもしれない。

でもきっとそれでいい。自分が行けなかったイベントのレポを読んで泣くのも、「少し話せた!」とか「こっちを見て笑ってくれた!」なんてツイートを見て醜い嫉妬に支配されるのもこりごりだ。

彼のイメージカラーの服を着ていこうか、髪型はどうしようか、メイク練習しなきゃ、ネイルは、会場は、当日の天気は。そんなことを考える必要も無くなればいい。

 

早く彼のことを諦めたい。申し訳なさと好きを両方抱えることなんて、私にできるはずも無い。

 

彼が素敵な恋をして結婚報告をするとき、心からおめでとうございますとリプを送れますように。

彼がもし、もし実況を辞めることがあっても、彼がくれた幸せな時間を飲み込んで、消化して、彼の幸せを願えますように。

 

これは私の本心であるし、そうでは無い。

叶わないと分かっていながら想い続けるのはあまりにも辛い。彼の幸せを願うのは、つまりは自分のためなのだ。早く楽になりたい。

 

支離滅裂な文章は大嫌いなはずなのに、こんな稚拙でめちゃくちゃな一貫しない言葉しか紡げないのも、何もかも嫌になってきた。

 

そういえば、彼がいつも付けているネックレスは誰からの贈り物なのだろう。

どうか、早く、その優しくて少し棘のある声で私を刺してくれ。